マントルの主要構成物質であるカンラン岩の物性を研究
磐南数え歌に「末は博士か大臣か」という一節があったと思う。今でも1年生は入学早々に怖い応援団の下で運動場の土手に整列して大声で歌う練習をしているのだろうか。
あれから40年を経て,名古屋大学理学部地球惑星科学科の岩石鉱物学研究室で研究教育活動を行っている。研究対象は惑星地球である。地球は表層を大気―海洋で覆われているが,地下ではゆで卵のように地殻(殻),マントル(白身),核(黄身)で構成された惑星である。このうちのマントルは,地球の80%を占めており「地球そのもの」と言っても過言でない。私の研究室では,マントルの主要構成物質であるカンラン岩の物性を主に研究している。
超深海底にはマントルそのものが露出
マントルは,地球表層を覆う地殻から最低でも6km掘削しないと到達できない岩石層であり,今でも人類未到の領域である。そのため,マントルの断片(カンラン岩)を手に入れるために,日本列島をはじめとして,北米大陸,アフリカ大陸,アラビア半島などの大陸調査を行ってきた。さらに平行して,マントルの断片探しの対象を海洋底にまで広げている。海洋底は地球表層の70%を占めるだけでなく,海溝という超深海底にマントルそのものが直接露出している。ほぼ毎年,太平洋やフィリピン海へ研究航海に出かけて,有人潜水調査船「しんかい6500」に乗船して深海底でマントルの痕跡を探している。
水深9336mでスネイルフィッシュを発見
ギネス世界記録更新
そうした中で,昨年(2022年) の8月13日にアメリカのフルデプス有人潜水船リミッティングファクター号に乗船して伊豆・小笠原海溝の最深部9801mまで潜航した。これにより日本人最深潜航記録を60年ぶりに更新した。さらに我々の研究チームは同じ海域の水深9336mでスネイルフィッシュを発見して「最も深い魚」のギネス世界記録を更新した。そうではあるが,マントルの岩石を採取するまでには至らなかった。
超深海の記録を更新しただけでは研究は進まない。今後も,名大の学生達と議論しながら,マントルと地球の研究を続けるばかりである。