「書生」のような人生

今年に入り、磐南の同窓会のご案内をいただき、自分が古希になったことを実感しています。

南高に在校中、私は夏目漱石が好きで、小説に出てくる「書生」になりたいと漠然と考えていて、「将来をもっと真面目に考えるように」と祖父から説教されたことがありました。しかし、大学ではフランス文学を専攻、勉強を続けているうちに大学に就職することになり、結局は「書生」のような生活を送って一生を過ごしてきました。

フランスで研究の師との出会い

そうした中で幸運だったことは、フランスに留学した際に研究の師であるジャック・ボニ教授と出会い、先生の仲介のおかげもあり、研究対象であるジェラール・ド・ネルヴァルの作品の校訂版をフランスで出版することができました。その本がルーブル美術館主催の読書会で朗読され、書店コーナーに平積みされているのを見たことは、研究を続ける上で大きな励みとなりました。

磐田にいる頃、フランスは遠い存在でした。しかし、フランス文学の研究を続けるうちに自然とフランスが近い存在になり、休暇はパリで過ごすといった生活を送りながら、大学の講義では、「個」を重視するフランス的な思考や感受性を学生たちに伝えてきました。

神戸の摩耶山での出会い

2024年、神戸にある摩耶山の麓で、本当に偶然ですが、尾市明子さんと親しく話をさせていただくようになり、彼女のお父上で現在の同窓会会長、加藤光久様も南高の後輩であることを知りました。しかも、南高の一年後輩である私の妻(堀井千津子)ともに、卓球部に所属されていた!そうした驚くような偶然が重なり、加藤様のお手数をおかけして、妻が翻訳したフランスの絵本と、私の単著数冊を図書館に寄贈させていただくことができました。半分はフランスで出版したもので、在校生には読めないとわかっているのですが、劣等生だった生徒でも好きなことを継続していれば外国で本を出版できたりするものだということを伝え、後輩たちの励ましになればと考えた次第です。そんな思いが伝わってくれれば、こんなに嬉しいことはありません。