証券会社から人工衛星ビジネスへ
大学では航空宇宙工学を専攻した。この分野のキャリアは航空宇宙分野では大手重工メーカーやJAXA、それ以外でも自動車メーカー等に進むのが一般的だが、私は証券会社勤務を経て、あえて宇宙スタートアップ(ベンチャー企業)という道を選び、株式会社アクセルスペースで経営陣として約10年間人工衛星ビジネスに携わった。余談だが、本誌第44号に寄稿された松浦直人先輩(高31回)とは仕事上のご縁があったことを、退職後本誌で知り大変驚いた。その後、経営の知見をさらに深めるため、別の会社にCFO(最高財務責任者)として参画し、東京証券取引所への上場を経験した。

核融合炉の実現にスタートアップとして挑む
宇宙という高度な技術分野での経営、そして上場で培った経営管理。これらの経験を携え、次なる挑戦の舞台として選んだのが、現在代表を務める株式会社LINEAイノベーションである。ここでは、エネルギー問題の抜本的な解決を目指し、核融合炉の実現に取り組んでいる。これも宇宙業界と同様に、研究機関や大企業が主流である分野に、スタートアップとして臨む挑戦だ。
核融合は「地上の太陽」とも呼ばれるが、私たちが挑むのは、燃料に水素とホウ素を用いる、中性子がほとんど発生しない画期的な方式である。これにより、放射性廃棄物を原理的に出さず、安全でクリーンな核融合炉が実現可能となる。この独自のアプローチにより、従来の巨大施設とは異なる、小型で低コストな商用核融合炉を目指せるのが強みだ。
巨大資本ではないスタートアップが挑む意義とは
巨大資本が取り組むべきとされる壮大なテーマに、機動力とスピード感のあるスタートアップで挑むことに、私は大きな可能性と意義を感じる。困難は承知の上だが、それ以上に社会を根底から変革しうる挑戦にこそ、心が躍るのだ。
この技術が確立されれば、未来の世代はエネルギーの制約から解放され、より豊かで持続可能な社会を築くことができると信じている。その日を目指し、チーム一丸となって実現に邁進している。
