熱帯雨林は生物多様性の宝庫

 四季の恵みに包まれる日本に住む私たちは、「熱帯雨林」に対して吸血性の蚊やダニ、ヒル、猛獣が跋扈する暗く蒸し暑い場所というイメージを持つかもしれない。しかし、熱帯雨林は地球上の生物の50~80%が息づく、生物多様性の宝庫である。冬のないこの地では、一年中どこかで果物が実り、若葉が芽吹く。熱帯雨林はまさに生物にとって楽園である。

テングザル

テングザルの観察・・・新たな発見に満ち溢れている

 私はこの動植物の息づく森に魅了され、東南アジア、南米、アフリカの熱帯雨林で野生動物の研究を続けている。中でも、東南アジアのボルネオ島の森には20年もの歳月を費やして通い続けてきた。私の専門は霊長類の行動・生態であり、とりわけ、天狗のような鼻を持つテングザルの観察を長年にわたり続けている。300種以上の霊長類の中で、このような特異な進化を遂げたサルは他になく、「なぜあのような鼻を…」という謎解きに夢中である。熱帯雨林には、新たな発見や未知の現象が満ち溢れており、その興奮は仕事であることを忘れさせるほどである。「汝の愛するものを仕事に選べ、そうすれば生涯一日たりとも働かなくて済むであろう」と孔子は言ったが、まさに私の大学での研究はこれに他ならない。  

希少動物を守るため、熱帯雨林の保全活動を実践!

 しかし一方で、減りゆく熱帯雨林の保全は世界的にも喫緊の課題である。東南アジアでは、アブラヤシ・プランテーションの拡大により広大な森が伐採され、ボルネオゾウやオランウータン、テングザルなど希少動物が絶滅の危機に瀕している。アブラヤシから作られるパーム油は、大量に日本にも輸出され、チョコレートや洗剤、化粧品などに使用されている。熱帯雨林の破壊は、遠い国で起きている日本人にとって無関係な出来事ではない。私は、熱帯雨林を保全するための植林活動や教育活動を、現地マレーシアや日本のNPOと協力して実践している。私の人生を楽しく豊かにしてくれた熱帯雨林を守るための活動もまた、研究活動と同じくらい重要である。