高校時代、終業式の日に寄り道をした本屋さんで自転車とカバンと赤点のある成績表を盗まれたことがありました。それはそれで「ラッキー」という感じだったのですが、親切な方が道端に捨てられていたその情けない成績表を見つけて、わざわざ母親に届けてくださって…。そんな無気力学生ですから、将来の目標も当然無く受験結果も散々。唯一合格した大学で建築を学ぶことになりました。
このように建築との出会いはなんとも冴えないものだったのですが、偶然にも性に合っていたようで、以来27年間ずっと建築に関わってきました。
人と人を繋げ、街の賑わいや暮らしの楽しさを生む建築の魅力
現在は、磐田に渡辺隆建築設計事務所という設計事務所を構え、建築の設計を仕事にし、依頼者の意図や想いを大切に、周辺環境との調和を図りながら、丁寧にかたちにしています。
近年手掛けたプロジェクトは、豊岡地区の公民館「豊岡中央交流センター」、卓球専用アリーナ「磐田卓球場ラリーナ」、ジュビロ磐田のユースの為のクラブハウス「Jubilo Clubhouse・Athlete Center」などです。
「豊岡中央交流センター」は、全長100mの深い軒を持つ切妻屋根と、街路のような沢山の通り抜け通路が特徴的な建築です。誰でも自由に施設内を通過して行き来でき、その道中で施設内で行われている活動を垣間見たり、偶然の出会いがあったり、井戸端会議をしたり…。
「磐田卓球場ラリーナ」は、緩いカーブを描く丘のような屋根が特徴の建築です。屋根の形は公園の環境に馴染むよう、隣接するかぶと塚古墳の丘のラインをなぞったもので、同時に生い茂った木々の落ち葉を受け流す形でもあります。
「Jubilo Clubhouse・Athlete Center」は、上から見るとブーメランのような形をした建築です。この形は、トップチームの練習をより身近に感じることができるよう、カーブを描く練習場に沿って建築を配置した結果です。
建築の形には様々な意味があって、その形が環境を調整したり、人と人を繋げたり、街の賑わいや暮らしの楽しさを生んだり、目標に向かうモチベーションをより高めたり。建築にはそんな魅力あって、その設計はとても刺激的です。
私の考えた「建築のかたち」が魅力的なものになっているかどうか、自分では判断し難いですが、長い時間をかけて磐田の風景として馴染んでいってほしいと願っています。
設計をしていると日々いろいろな難問にもあたります。建築に出会った時の緩さも少しだけ思い出して肩の力を抜きながら、これからも設計していきたいと思います。